Special column「アート×デザイン」
DDTN(どっかのだれかのとんでもないなにか)
第1回「グラフィックデザイナー、ヴェネチア・ビエンナーレへ行く」
今回からはじまる連載コラムは、日本デザインセンターでアートディレクター、グラフィックデザイナーを務める
荒井康豪さんに、アートやデザインにまつわる話を語っていただきます。
ヴェネチア・ビエンナーレを見に行った時の話をしよう。
それは2007年。ヴェネチアが数年後に水没してしまうという噂を
真に受け、すぐにでも行かなければと焦っていたタイミングと、
このアートフェスティバルの開催時期が、ちょうど重なったこと
で実現した旅だった。
前日までパリで数泊していたのだが、安宿に泊まったせいでダニに
刺され、首の痒さを必死に我慢しながらヴェネチア入りしたことを
覚えている。
ついに訪れたヴェネチア。
しかし、想像以上に漁港の感じがしたせいか、いくつか観光スポット
をめぐり、ところどころハッとさせられるような場所もあったが、
最初はあまりピンとこなかった(もしかしたら痒みのせい……?)。
そして、ヴェネチア・ビエンナーレの会場とおぼしき場所に着いたが、
正門ではなかったのか、オブジェの置き方が妙に雑。意外とこんな
ものかなと思っていたが、それも束の間、進んでいくと国立美術館の
ような立派な建物が次々に現れ始めた。
予想以上のアート作品の数々と各国のパビリオン。
まさにアートの祭典という感じ。さっきの場所は美術さんの工房だった
のかもしれない。
細かく挙げていくとキリがないが、ヴェネチア・ビエンナーレで特に
印象に残ったのは、ドイツの画家ゲルハルト・リヒターの巨大な作品
群と、フランスの現代美術作家ソフィ・カルのクオリティの高さである。
ソフィ・カルの独特な視点は本で知っていたが、実物の写真は本当
に美しく、というかクーール。グラフィック的な作品も数点あった
のだが、そのどれも質へのこだわりが尋常ではなく、フランス館
自体の展示のクオリティが半端ではなかった。他の作家の作品もまた
多種多彩であった。
港を含めた広大なスペースで虹を作り出すインスタレーション作品
では不思議な高揚感に包まれ、また立ち尽くす女性の顔スレスレに
シャドウボクシングを延々繰り出し続けるビデオ作品は個人的にハマリ、
ずっと見入ってしまった(バカバカしいものが好き)。
日本人では束芋の作品が和の妖しさ満開で異彩を放っていた。
グラフィックデザイナーとしては、ディレクトリや、そこに詳細に
描かれた地図のグラフィックも楽しかった。
なんかクーール。
全体を通して万博のような印象で、都心の大規模な美術館にはない、
かといってチェルシーみたいなギャラリー街にもない楽しげな雰囲気が
漂っていた。
アートフェスティバルは、非日常感からか、素直に受け入れられる気持ち
がこちら側に出来上がっていて、さらに作品自体も環境を取り込んだパワー
を持っているので、倍以上に「いいものを見たな」という感覚が残った。
痒みの方も後々まで残ったが……。
そして、幸いなことにあれからヴェネチアは水没せず、今も2年に一度の
ビエンナーレは開催されている。あの楽しげな雰囲気の中に息づくアート
に、また機会があれば触れてみたいものである。
(Profile)
荒井康豪
アートディレクター/グラフィックデザイナー。1974年東京都生まれ。
2003年より日本デザインセンター在籍。主に企業のブランド構築のためのクリエイティブを展開。
平行して実験的なグラフィック作品の制作、発表もおこなう。
ONE SHOW DESIGN金賞・銀賞、D&AD NOMINATION、ニューヨークADC銀賞など。
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