Artist Interview No.02 AKI INOMATA
アートは「自分たちを見つめる装置」

INTERVIEW(インタビュー)

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現代美術作家
AKI INOMATAインタビュー

聞き手・文/浅井貴仁

ヤドカリが背負う貝殻に世界の国々がかたどられている作品や、人間の女性が着ている洋服をミノムシにまとわせた作品など、生き物をモチーフにした作品が特徴的なAKI INOMATAさん。日本だけでなくアメリカ、イギリス、中国など海外でも展覧会を開き、世界から注目されている現代美術作家の1人である。横浜みなとみらいにあるハンマーヘッドスタジオ「新・港区」内にあるアトリエ(2013年1月現在)にて、その作品制作の裏側についてお話を伺った。

生き物に協力してもらい作る現代アート

——INOMATAさんがアトリエとして利用されているハンマーヘッドスタジオ「新・港区」にお邪魔してお話を伺っていきますが、こちらにあるのが、作品「やどかりに『やど』をわたしてみる」ですね。

INOMATA : ヤドカリに私がつくった「やど」を渡して、気に入れば引っ越してもらう作品です。「やど」の上には、色々な国の都市がかたどられています。

——このヤドカリの作品はどのような発想から作られているのですか?

INOMATA : ヤドカリの作品を作るきっかけは、フランス大使館の解体イベント”No Man’s Land”(2009年)でした。フランス大使館の建物は一度解体されて、隣に新しく大使館が建てられたのですが、一度その土地がフランスから日本に返還されて「日本」になり、そしてまた50年経ったら「フランス」になるということに衝撃を受けました。同じ土地なのに、「国が引っ越しをしている」。広尾の町の一角がフランスになったり日本になったりするのが不思議だと思いました。

一方でヤドカリは成長して大きくなると、宿にしている貝殻を引っ越しする習性があります。私は飼っているヤドカリに、貝殻が緑だから「ミドリ」と名前を付けていたりするのですが、貝殻を引っ越すと全然違う子に見えてしまう。住んでいる本体ではなく、借りものの貝殻のほうに、ヤドカリのアイデンティティーがあるようにも見えます。
そこでヤドカリに、色々な国の「やど」を背負わせ、引越しをさせてみようというアイデアが浮かびました。

——透明な「やど」が印象的ですが、作品「やどかりに『やど』をわたしてみる」はどのようにして作られているのですか?

INOMATA : ヤドカリが背負っていた貝殻にCTスキャンをかけてデータを取り込み、その貝殻のデータの上に私がCGで各国の都市を作っています。その一体型になったCGデータを3Dプリンターで出力して「やど」を作りました。都市のモチーフになっているのは、オランダの風車や、ニューヨークのエンパイアステートビル。日本は「ドラえもん」でのび太が住んでいそうな普通の一軒家など。

その「やど」をヤドカリに渡して、ヤドカリが気に入ったら背負ってもらいます。すぐに「やど」に入ると思っていたのですが、気に入ってもらえないことも多いです。ヤドカリを見ていると、人間が家の内見をするように、入口のサイズをハサミで測ったり、裏返して穴が空いてないか調べたりと、かなり検討して慎重に選ぶんです。最初はCTスキャンも3Dプリンターも使わずに、内部をただ丸くくり抜いたものを作って渡していたのですが、それだと入ってくれませんでした。貝殻の中の螺旋構造が重要で、それが彫刻では再現できず、型取りでも難しい。3Dプリンターの技術があったからこそヤドカリが入ってくれたんです。

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作品名:やどかりに「やど」をわたしてみる
制作年:2009-2013
素材: 映像、写真、ミクストメディア
大きさ:9分41秒(映像)、φ250(写真)、50x50x50mm(立体作品 ※やど)

——同じく生き物を用いた作品としてミノムシに洋服をまとわせる「girl, girl, girl . . .」という作品もあります。こちらはどのような作品ですか?

INOMATA : もともと日本には、細かく切った色紙などをミノムシに与えてミノを作らせる子供の遊びがあります。それと同じように、人間の女の子の洋服を細く切ってミノムシに渡して、それでミノを作ってもらうという作品です。美的センスや、ミノムシが持つミノ作りのプログラムみたいなものが見たくて、私が色々な素材を渡してミノを作ってもらいました。

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作品名:girl, girl, girl . . .
制作年:2012
素材: 映像、写真、ミクストメディア(洋服、シャーレほか)
大きさ:5min. 39sec.(映像), 770×770mm・ 145×145mm両面2点組 (写真)

——INOMATAさんの作品は、動物と一緒に作ったり、動物に作ってもらうシリーズが多いですね。
これはなぜですか?

INOMATA : 国境や言語、ファッションなど人間の問題を考えるときに、あえて人間ではない視点から考えてみようというのが発端です。生き物は、人間とは違う意識で生きていると思います。ミノムシに至ってはもう何をどう考えているか分からないほど他者性が強い。そんな人間とは異なる存在とコミュニケーションをしたり、何かをやってもらうことで、逆に人間について見えてこないか、という試みです。

ヤドカリは、自分の「やど」を選択し、ミノムシは自分の巣筒を自ら作ります。衣食住でいうと「住」。例えば、鳥は巣を作ります。ビーバーは水をせき止めてダムを作り、自分たちが住みやすいような場所を作ります。そういう動物が持つ技、私は「テクノロジー」と呼んでいるのですが、そういうものに興味があります。私たちとは全く違う思考がとても新鮮で、人間と照らし合わせて考えてみたいと思い、ずっとリサーチしているテーマです。

「もの」ではなく「こと」の芸術へ

——そもそも現代美術作家になったきっかけを教えて下さい。

INOMATA : 小さなころから、もともと美術は好きで絵を描いていましたが、実は美大に入る前に横浜国立大学にいて、演劇をやっていました。当時、劇作家の唐十郎さんが教授をしていたのですが、その唐ゼミに入って演劇をしていた時期があって。そこで様々なインスピレーションを受けました。

例えば、唐さんは紅テントといわれる大きなテントで演劇を公演していたのですが、物語の最後に、舞台後方のテントが解き放たれる演出があるんです。それまでテント内の舞台上で物語が進んでいたのに、舞台と現実世界が繋がる、その演出に衝撃を受けて。私も、フィクションと現実の世界とが繋がるようなものを作りたいと思いました。
一方で、私は演劇に向いているわけでは全くなかったので(苦笑)、なぜ人間は生きているのだろう、私たちの社会はどうなっているのだろう、など自分が疑問に思うことを率直に探求できるのはアートというフィールドかもしれないと思うようになり、アートの道に進みました。

——絵画ではなく、インスタレーション作品から入ったとお聞きしましたが?

INOMATA : インスタレーション作品から入り、今では「もの」ではなく「こと」、行為自体が作品となるものが多いです。インスタレーションでいうと、例えば美大の修了制作では、水をモチーフにしたインスタレーション「0100101」という作品を制作しました。白い部屋に、水が本当にあるように見えますが、実際には水はなくてライトと水槽、水滴を落とす装置が設置されています。そのライトの影が床面に投影されて、あたかも水があるように見えるという作品です。水滴をプログラミングで落としていて、くるくる追いかけっこするように順番に落ちたり、一気に落として花のような幾何学模様になったり、じわじわと変化していきます。自然と人工物の曖昧な境界がテーマになっています。

——こういったプログラミングや装置は、INOMATAさん自身が作られるんですか?

INOMATA:一から作っています。パソコンとつながっていてプログラムによって水滴が落ちるタイミングを計算して出しています。同じ技術を使った違う作品を作ることもありますが、私の場合は毎回、作品に応じて、どのような技術が必要か調べて作っていくことが多いです。

——デッサンや油絵の場合、絵を描くということはわかりますが、INOMATAさんの場合はどのような制作過程になるのでしょうか?

INOMATA : 現代アートの場合でも、実際の作業が占める部分は大きいですが、まず、コンセプトを考える時間が長いですね。例えば、「国境」というテーマがあったとしたら、とても長い時間、国境について考えます。そこから、アイデアを形にする過程は作品によります。例えば、ミノムシの作品なら、まずミノムシを捕まえるところから(笑)ミノムシを捕まえるのにも約2年かかりました。「何やっているんだろう」と思いながらひたすら探していました。もちろん他の作品と並行しながらですが。

また、作品の実現に関しては自分の力だけで作っているのではなく、多くの人の協力によって実現出来ている部分がとても大きいです。ミノムシの場合も、Facebook やTwitterで呼びかけてミノムシを譲ってもらったり、最終的にはミノムシの研究者の方に大変お世話になりました。

——映像作品の「インコを連れてフランス語を習いに行く」は、フランス語を覚えるのに時間がかかりそうですね。

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作品名:インコを連れてフランス語を習いに行く
制作年:2010
素材: 映像
大きさ:5min. 21sec.

INOMATA : この作品の場合は、インコ(名前はわさびっちょ)と一緒に、半年間フランス語を習いに行きました。最初はフランス語教室に「インコを持ち込んでもいいですか?」と訪ねて回るところからスタートしました。実際にやってみると、インコが思った以上に人間に近い印象でした。『シルブプレ』という言葉をインコが覚えたのですが、『ワサビッチョ、シルブプレ』と自分で組み合わせたり、略して『ワサビプレ』と言いはじめたり(笑)。言語を習得して使っていく過程が思った以上に人間に近かったです。私たちも文法をすべて理解して話すというよりは、先生の言っていることをとにかく反復して覚えるという部分が大きいと思います。人間とインコの言語習得の過程が実は近いと気づいたことで、作品のテーマも少し変わっていきました。

——作品のテーマが変わるということもあるのですか?

INOMATA : 動物を相手にしているので、やってみないと分からないことばかりで。実際に制作をしてみて想像と違っていたら、そこからさらに考えていくという形です。コンセプトが始めにあるというよりは、それについて考えていったり、やってみた結果で、変化したり、深くなっていくこともあります。
もちろん失敗もあります。例えば最初に私が渡した「やど」には、ヤドカリが入ってくれませんでした。「入らなかった」というのを作品として出すべきか、それとももう少し続けるべきか、悩んだりもしました。それでも、「やど」の制作方法を改良するなどしたら入ってくれたので、どこが失敗でどこが成功なのかは難しい問題です。そもそも「アートとはなんだろう」ということにもなりますが、例えば、「入ってくれない」という結果が作品になる可能性もゼロではないのです。

アートは自分たちを見つめるための装置

——INOMATAさんの作品は直感的にわかりやすい作品が多いですが、現代アートはどのように楽しむとよいのでしょうか?

INOMATA : 展覧会では、展示されているすべての作品を理解して解説できるようになるのが目的ではないので、全部の作品を無理に見なくてもいいと思います。私の場合は、自分が気になる作品だけを時間をかけてじっくり見ます。作品を見て「そうか、私ってこういうところが気になっていたんだ」と気づくことは楽しみの1つです。
誰にとっても、意味はわからないけど、なぜか気になる作品があるはずです。それは自分のなかにある問題と、その作品が提示している問題が、どこかでリンクしているところがあるからだと思います。「私はこういうコンプレックスを持っていたのか」「私はこういうことでずっともやもやしていたんだな」とか、自分のなかで問いにもなっていなかったことが、その作品でテーマになっていたりします。反対に、自分になかった視点がある作品を見たときは、ガツンとショックを受けますね。
好きな作家ができたら、アーティスト・トークを聞くのもオススメです。作品だけ見るのもよいですが、なぜそれを作っているのか、根底にあるものは何なのか、作家の話を直に聞くことで、作品の見え方がぐっと深くなることもあります。

アートには日常とは違う、非日常を体験する部分があると思います。普段の生活では仕事をはじめ、やらなければいけないことがたくさんあります。そのなかで、アートに触れることで、別の次元にトリップするというか。それにより背中を押されたり、リフレッシュして元気になることがあります。実は、私もそれで救われてきました。行き詰まったり辛いときには美術館に行くことが多いです。普段の生活とは違う非日常の場所に行くことで、もやもやを整理する時間になっています。息苦しさを感じている人こそ、ぜひ美術館や博物館に足を運んで、気軽にアートに触れてほしいですね。

——最後に、INOMATAさんにとって、現代アートとは何かを教えて下さい。

INOMATA : 現代アートは、自分たちの世界を問題にしているものであり、私たちの世界に直結しています。私は、作品を「自分たちを見つめるための装置」だと思い、作っています。人間とは何か、作品を通して問い続け、考え続け、探究し続けるものだと思っています。

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(プロフィール)
現代美術作家 AKI INOMATA
1983年東京生まれ。2008年東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻修了。

HP:http://www.aki-inomata.com/

<主な個展>
2013 WORKS 2009-2013 ONE, 上海, 中国
2012 girl, girl, girl . . . 渋谷西武店、東京
2011 Aki Inomata : Why Not Hand Over a ‘Shelter’ to Hermit Crabs? The UNIVERSITY of VERMONT FLEMING MUSEUM、バーモント州、アメリカ

<主なグループ展>
2013 岐阜 おおがきビエンナーレ 2013 LIFE to LIFE -生活から生命へ 生命から生活へ- 情報科学芸術大学院大学(IAMAS), 岐阜
2012 イメージの新様態 no.21 Out of Place Gallery SUZUKI、Antenna Media、京都
2012 第15回 岡本太郎現代芸術賞展 川崎市岡本太郎美術館、神奈川
2011 中之条ビエンナーレ2011 旧第三小学校、群馬
2009 フランス大使館旧庁舎解体前プロジェクト No Man’s Land 旧在日フランス大使館、東京


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