Artist Interview No.01 薄久保香 Kaoru Usukubo 
アートは“問いかけ” 2次元の可能性を求めて

INTERVIEW(インタビュー)

アートは“問いかけ”
2次元の可能性を求めて

現代美術作家
薄久保香インタビュー

聞き手・文/浅井貴仁
予言の証明-あなたの声は近くに
予言の証明-あなたの声は近くに
The proof of prophecy – I hear you so close to me.
2011 Oil on panel 227.5×436.5cm

東京のギャラリーTARO NASUでの個展「Wandering season」(2007年)を皮切りに、シカゴ、ベルリンなど海外での個展を成功させ、現在は東京造形大学で教鞭も執る、今もっとも注目されている女性作家の1人である薄久保香さん。その独特な制作方法や、アートに対する考え方などをうかがった。

美大卒業後、社会人を経て再び美大へ

——2007年に初の個展を開き、現代美術作家としてデビューされた薄久保さんですが、今や注目の女性作家の1人としてメディアでも取り上げられています。もともと作家を目指していたのでしょうか?

薄久保: 小学校の頃から絵を描くことが一番熱中できることで、高校は普通科でしたが、大学は美大に行きたいと思い東京造形大学に入学しました。でも、その頃は、将来は作家を目指すというよりも、デザイナーやイラストレーターなど、絵に関わるクリエイティブな仕事に携わりたいと漠然と考えていました。

大学3年生になり進路を考えたとき、絵を描くことを主軸に置きつつできる仕事ということで、ゲーム会社にデザイナーとして就職したんです。会社ではアミューズメントゲームのCG制作に携わりました。

——現在でも作品作りにCGを利用されるそうですが、その経験は活きていますか?

薄久保: CGを経験して思ったことは身体性の有無ですね。絵を描くときは筆を持ったり絵の具を混ぜたりといった、身体的な感覚があります。CGでもリアルな映像や、絵画的な美しい絵を作れるのですが、その視覚的なリアリティに対して、実際の作業ではパソコンに向かうだけで身体性が無いんですね。私が絵を描くとき、手で描くアナログな部分が重要なのですが、一方で、身体性が無い違和感に面白さを感じる部分があり、身体と思考を繋ぐような作品が出来ないかとおぼろげながら考えていました。

——その後、社会人を経て東京芸術大学大学院を受験。再び美大へ進学されました。

薄久保: 絵を描く、作品を作ること自体はどこでも1人でできるのですが、学校のいいところは、同じ志を持つ人たちと話をして情報を得たり、絵を比べたりする機会があることです。結局、会社は一年弱で辞めて、大学院を受験しました。在学中はあまり作品の発表は行いませんでしたね。まだ人に評価してもらえる段階ではないと思い、研究に没頭していました。

——それでも、大学院在学中にコマーシャルギャラリーに所属されて、デビューされました。その頃はどのような活動をされていましたか?
薄久保: 日本では90年代頃から、コマーシャルギャラリーと呼ばれる国際的に日本の現代アートを紹介する新しい画廊が現れました。私は大学院修了の頃、その1つである「TARO NASU」に所属しました。もともと写真やコンセプチュアル・アートを多く取り扱っていたギャラリーですが、そこから少しずつ、海外への活動とも繋がることができました。例えば、最も有名なアートフェアの1つである、「バーゼルアートフェア(スイス)」で同時開催されていた「VOLTA」というフェアから作品を出品したこともきっかけの1つです。そこでドイツのギャラリーとの縁ができて、その後ベルリンで個展を開催することができました。

現実に存在しないものこそリアルに描く

——様々な作家の作品を見たり、研究をされてきたと思いますが、その中で薄久保さんが影響を受けた作家を教えて下さい。

薄久保: 小学校高学年の頃にはじめて模写というものをしたのですが、それがセザンヌの作品でした。その時にセザンヌを選んだ理由は、筆致を並べたような独特な描き方が面白いと思ったからです。その時の印象は今でも鮮明なものです。また、「物」をどう見るか、絵画空間をどう構成するか、どんなテクスチャーが必要かなど、絵画を制作するうえでも鑑賞する上でも、セザンヌは現代絵画の枠組みや価値観の礎となっているという点において、好き嫌いという次元を越え重要な作家だと思います。

それから実は、日本美術から影響を受けた部分も大きいです。 雪舟(せっしゅう)、長谷川等伯(はせがわとうはく)、琳派(りんぱ)、丸山応挙(まるやまおうきょ)など。共通するのは、「絵の中でしか見ることのできない空間」を作っているということですね。私の作品の場合、実は、描いた部分と同じくらい、描かれなかった部分が大きな意味を持っています。この描かれなかった「間」は、モチーフと精神を繋ぐ担い手であると考えています。その観点からも日本美術から学ぶ事は沢山あります。

また、琳派の本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)は作品だけでなく、今で言えばアートディレクター的な活動もしていた多才な人物という点が魅力です。私も絵を描いていますが、それ以外にも作品のプロデュース、ディレクションなど、今後様々なことに取り組みたいと考えています。日本アート教育振興会でのデッサン講座も、その活動の一環です。◯◯派みたいなものを作りたいわけではないですよ(笑)。

——薄久保さんの作品についてもお聞きしたいのですが、現実には存在しないようなモチーフが登場する独特な作品が特徴だと思います。作品作りにおいて、どのような工夫をされているのですか?

薄久保: 私の作品は、結果的に油絵という形になっていますが、その制作過程で写真撮影やCGを使ったりしています。作品作りは、まずモチーフとなる写真を撮るところからはじまります。撮影現場に100円ショップで買った紙やひも、粘土とか様々なものを用意しておき、子どものモデルにその場で自由に遊んでもらいます。その様子を撮影し、何気ない動作の中でたまたま撮れた不思議なシチュエーションや、自分が想像していなかった状況を絵にしていきます。

Fwappy 2012 Oil on panel 91.0 x 91.0 cm
Fwappy 2012
Oil on panel 91.0 x 91.0 cm

——不思議なシチュエーションですが、圧倒的な画力で緻密に描かれているため、薄久保さんの作品は「写実的」だと評されることもあるようですね。

薄久保: 見たものを見たままにリアルに描く、スーパーリアリズムというカテゴリーに私も振り分けられることがありますが、写実的というよりは、あくまで「絵だけでしか表現できないもの」を描きたいと考えています。リアルに描ける技術はもちろん大切です。現実的に存在しないようなものこそ、リアルに描かないとうまく伝わらないからです。技術が足りないと、下手なCGのように嘘臭くなってしまいますからね。ですから、自分が描きたい内容に対して、必要な技術がきちんと身についているかどうかが大事だと思います。

根源的なテーマは“問いかけ”。そこから様々なテーマが生まれる

——そのようにして、緻密で幻想的な作品ができるわけですが、薄久保さんが作品を作る上でのテーマとは何でしょうか?

薄久保: 私にとってアートとは“問いかけ”、つまり問題提起だと思います。作品について、1から10まで作家が説明して、納得してもらうのではなく、作品は問いかけみたいなもので、見た人がそれぞれ回答を考えるという関係がいいと思います。でも、出題者がうまく問題を作らないと、興味を持ってもらえないし、答えを導き出してもらえません。

“問いかけ”は作品の根源的なテーマでもありますが、その時々に作る作品のテーマは、自分がそのとき関心を持っているものや、自分の成長度合いよっても変わります。作品の中に常に存在するのは、相反する2つの概念です。例えば、「デジタルとアナログ」、「偶然と必然」といった対立する概念がありますよね。その2つの関係性を探る行為から私の作品は作られています。最近では「時間」がテーマの1つです。時間には、客観的に1秒ずつ過ぎていく時間もあれば、心の中で同じ1秒が一瞬に感じたり、永遠に長く感じたりすることもあります。同じ時間なのに相反するその“ずれ”を探っています。私の作品の中に、髪を風でなびかせている一瞬をとらえた絵がありますが、目でもとらえきれない一瞬を油絵に変換したときに、時間の問題提起が自動でなされているんじゃないかと思います。

——子どもがよく出てきますが、それもテーマに関係するのでしょうか?

stop and motion 2011
stop and motion 2011
佐藤美術館蔵
Oil on panel 162.0×130.3 cm

薄久保: 実は子どもというモチーフ自体に意味があるわけではありません。先ほど説明した作品作りの過程で、撮影の際に子どもの方が、その場になじんで勝手に動いてくれるからです。子どもが勝手にままごとのように作っていってくれたストーリーをこちらが拾っていくので、子どものモデルが必要なんです。

——1つひとつの作品だけでなく、展示をする場合に作品同士の関係性も考慮しますか?

薄久保: 展覧会をする場合は、パッと見たとき、会場の空間全体がどう見えるかを考えていますね。全ての作品の関連性を考慮し、空間を漂う空気をどう作るかを大切にしています。同じ作品の内容だとしても、展示の仕方によって、全然印象が違ってきます。どこで足を止めてじっくり見てもらうか、足が止まらないようするか、作品の配置の仕方や順番を工夫しています。

長所を磨き、時には古いやり方を捨てることが近道

——実際の作業の様子についても教えてください。とても緻密な絵を描かれますが、制作日数はどのくらいですか?

薄久保: 私の場合は、3〜4点の作品を同時進行で描いていることが多いので、正確にはわかりませんが、数10cm以内の小さな作品であれば2週間ほど。2m☓2mなら1~2ヶ月ほど。作品によってまちまちです。実際には締め切りがあるので、それに合わせて描いています。

——作品の制作を行うのはアトリエだと思いますが、作業しやすいように工夫されていることはありますか?

薄久保さんのアトリエの様子
薄久保さんのアトリエの様子。壁には作品がかけられ、
道具はシンプルに整理されている。

薄久保: やはりどうしても作品が大きいので、物理的に作業スペースとしてアトリエが必要ですね。作家のアトリエというと、かわいらしいイメージがあると思いますが、私の場合は作業場といった雰囲気です。

絵を描いていると汚れたり、道具がごちゃごちゃになりがちなので、常に掃除と整理整頓を心がけています。使いたい道具や材料が見つからずに探していると、それだけで時間がかかり作業が中断されてしまいますので。合理的にきれいに配置しておくといいと思います。

——プロの作家さんというと、道具へこだわっている人が多いですが、お気に入りの道具などはありますか?

薄久保: 実は自分でもびっくりするほど、道具に対するこだわりがないんです。高価なイスを汚しちゃいけないとか気を使いすぎると、これから作る作品より気になってしまって集中できないからです。もちろん、ずっと使っている道具は愛着を持っていますが、物自体は全く大したものは使っていません。

——最後に、「Art Life Press」を見ている読者の中には、自分で作品を作りたいと考えている方が多いと思います。趣味として、もしくはプロを目指す方に向けてアドバイスをいただきたいのですが、作品を作る場合に気をつけていることはありますか?

薄久保: 作品を作る場合、自分の作品から離れて時間を置くといいでしょう。どうしても、絵を見すぎていると、それが良いのか悪いのか判断できなくなるので。展覧会などの締め切りがある場合、ぎりぎりまで作業をしないで、少なくとも数日前には作業を終えて、客観的に見ると良いでしょう。作業の終盤になればなるほど、描く時間よりも見る時間が長くなるほうが、良い作品になると思います。

また、趣味でもプロを目指す場合でも、自分がどんな作業を得意としているのかを知ることが大事です。苦手なことを克服しようと頑張って時間を使うよりも、自分の長所を伸ばすことが何よりも近道です。そして、時には今のやり方を捨て、新しいやり方に挑戦してみてください。もし、行き詰まる場合は、もしかすると今のやり方が合っていないということも考えられます。

特に現代アートの場合は、ビジュアルイメージよりも、思考や考え方を重んじています。作品を見ると、絵だけでなく、文字や映像を使ったりインスタレーションや、パフォーミング・アーツなど、様々なジャンルがあります。むしろ、絵は少ない方かもしれません。テーマはそのままに、まずは自分が得意とするものが何なのかを知ることが大切ですね。ぜひ、チャレンジしてみてください。

現代アーティスト 薄久保香

現代美術作家 薄久保香

現代アーティストとして国内外で活動しながら、美術大学で講師を務める。受講生の悩みや、進みたい方向性を的確に掴みながら、一緒に答えを導きだすスタイルで、その指導方法に高い信頼を得ている。また、その気さくな人柄や柔らかな雰囲気からも受講生からの人気が高い。

フィガロジャポン10月号フィガロジャポン10月号

作品は現在発売中のフィガロ10月号でも紹介されています。是非ご覧下さい。

薄久保香さんの詳しいプロフィールはこちらでご覧頂けます。
聞き手・文/浅井貴仁


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